はんことマクローリン展開

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図書館でのバイト中に、返却されたこの本が目に留まった。著者の名前に見覚えがあったからだ。

よく見ると、私が高校で数学を教わっていた人だった。

パラパラめくっていると、最後のほうにマクローリン展開の説明が出ていた。統計学の学習に必要だがいまいち理解できていないトピックだった。

しかしこの本の説明はとてもわかりやすかった。一読後、私は傍らのノートとペンをとって、数式を書き下していった。最後まで書き終わった瞬間、腑に落ちた感覚があった。

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しばらくして、佐藤氏にまつわる奇妙な思い出がよみがえってきた。

ある日のこと、私は登校してから、学校に提出しなければならない書類に印鑑を押し忘れていたことに気づいた。しかし締切が当日中で時間がない。

そこで私は一計を案じた。同じ苗字の佐藤氏のところに行って、無理を言ってはんこを借りたのである。氏は苦笑しながらもはんこを貸してくれた。私は丁重にお礼を述べた。

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当時の私は全く数学に興味がなかったので、彼に教わったことはほとんど覚えていない。したがって私にとっての佐藤氏のイメージも、「はんこを貸してくれた人」というのにとどまっていた。

だが今日、私は彼が数学教師として卓越した人物であることにはじめて気づいたのである。